アビイ酵母を使ったビールの仕込みを通して、この酵母が生み出すフルーティーな香りや味わいの理解が深まりました。その特徴を最大化する方法を考えたときに、アビイ酵母のフルーティーな特性はIPAと相性が良いのではないかという直感が頭をよぎり、今回はその直感を信じて遊んでみることにしました。アビイ酵母を使ったIPAだけに、戒律に厳しい不飲酒戒の僧侶や教徒がこっそり飲みたくなるような、煩悩にまみれたIPAを目指しました。ホップの中には甘みを増幅させるようなキャラクターを持つ品種があります。今回はパイナップルキャンディーなどとも表現されるホップの品種を使用しています。ホップ由来のフレーバーと、アビイ酵母の芳香が重なり、太陽の光を浴びて甘く熟したメロン、パイナップル、バナナのような甘美なIPAに育ちました。もはや、強めに効かせた苦味すらも、「スイカにかける塩」のように、甘みを引き立てるための脇役の振る舞いに落ち着ついています。「甘味」は「喜び」である反面、時として「抵抗」にも成り得ます。出来ることなら、このIPAも喜びのままに喉を通り過ぎて行ってもらいたかったため、カラメル麦芽などは使用せず、麦芽の甘みはそこまで残さない設計にしました。また、糖類を少量添加することにより、ボディを軽くすることで帳尻を合わせました。意外かもしれませんが、ビール醸造における糖類はビールを軽量化する際のオプションとして使用されることがあります。堕落へと導く甘美なAbbey IPAはアルコール度数が高いのも罪作り。堕ちたいときに堕ちるだけ堕ちたらいいのです。
- ABV
- 7.5
- IBU
- 70