2021年10月某日。北海道のほぼ中央に位置する上富良野町から、車で東へ約3時間走らせた先にある都市が北見市。ここへは、とある原材料の調達のために、暗がりの工場を発ちました。道産子の方なら「北見といえば、ハッカ」と勘づいた方もおられるのではないでしょうか。そうです、今回の主役は北見薄荷。かつては、世界のミント市場の約7割を北見産の薄荷が席巻したという誇らしい歴史、浪漫、そして現在に至る栄枯盛衰の物語があります。薄荷の葉には清涼な香りと冷涼感を持つメントールが多く含まれており、この精油は水蒸気蒸留によって採取されます。10月は蒸留の季節。今よりも生産が盛んだった時代、蒸留後の薄荷残渣を積んだトラックの行き交う町中は、薄荷の清涼な香りが溢れていたといいます。残渣にはまだ素晴らしい香りが残っており、その香りをビールに閉じ込めることができるのではないかと直感的に思い、直ちに北見の株式会社北見ハッカ通商様に問い合わせをしました。大変有難いことに、私たちの無理なお願いを、快くご承諾を頂いて今回の原材料の使用が実現しました。北見ハッカ通商様にはあらためて深く感謝申し上げたいと思います。蒸留現場は、目に染みるほどの薄荷の清涼な水蒸気で満たされていました。蒸留の作業を少しお手伝いさせてもらい、ひと汗を流しましたが、薄荷の成分によってひんやりと気持ちよかったのを覚えています。社用車いっぱいに積み込んだ薄荷残渣は仕込みまで冷凍保管。頭を悩ませたレシピは、米国の醸造所がミントを使った美味しいスタウトを作っていたことを記憶しており、北海道にゆかりのある「薄荷」でそれ以上に美味しいスタウトを作りたいと考えました。私たちが用意できる最上級に美味しいスタウトのレシピを作り、薄荷の残渣に麦汁を一瞬だけくぐらせる短時間接触によって、残っていた精油成分や、薄荷のハーブとして未知の特徴を存分に抽出できたと思います。仏閣を連想する白檀の木のような香り、口に含むと焙じ茶、タバコ、ハイカカオチョコレート、エスプレッソなどのダンディなフレーバーの後に、ホップのビターなフィニッシュとメンソールの冷涼感が感じられます。ひんやりとした感覚は通常のビールでは感じられない体験であり、充分な薄荷の存在証明になったのではないでしょうか。他にない面白い仕上がりに満足していますが、好みの別れる味わいになったかもしれません。微調整を行ない、来年のORIGINALS+入りを目指しています。
- ABV
- 7.0
- IBU
- 55